非国際武力紛争(NIAC)における自律型殺傷兵器(LAWS)の運用と国際法上の課題:人道法と人権法の適用を中心に
はじめに:非国際武力紛争という特殊な文脈
自律型殺傷兵器(LAWS)の開発と潜在的な配備は、将来の紛争形態に深刻な変容をもたらす可能性が指摘されており、国際社会において倫理的・法的な議論が活発に行われています。これまでの議論の多くは、国家間の武力紛争(International Armed Conflict - IAC)を念頭に置いたものでしたが、現代の紛争の多くが、国家と非国家武装集団との間で発生する非国際武力紛争(Non-International Armed Conflict - NIAC)であるという現実を見過ごすことはできません。
NIACは、正規軍同士が対峙するIACとは異なり、紛争主体、作戦環境、法的枠組みの適用など、固有の複雑性を有しています。このような文脈でLAWSが運用される場合、国際法、特に国際人道法(IHL)および国際人権法(IHRL)の適用は、IACにおける議論とは異なる、さらなる困難を伴う可能性があります。本稿では、NIACにおけるLAWSの運用が、既存の国際法規範にどのような固有の課題を突きつけるのか、特にIHLとIHRLの適用可能性と限界に焦点を当てて分析いたします。
非国際武力紛争(NIAC)における国際法の適用概観
NIACには、ジュネーブ諸条約の共通第3条、1977年の追加議定書II(限定的)、そして慣習国際人道法が適用されます。また、特定の状況下では、紛争当事者や交戦地域に応じて国際人権法も同時に適用されうる、いわゆる「法の並行適用」の状況が生じ得ます。
IACと比較して、NIACにおけるIHLの規範はより限定的であり、特に非国家武装集団に対する義務の範囲や性質については議論の余地があります。例えば、国家には特定の条約上の義務が課されますが、非国家主体がこれらの義務をどの程度負うのかは、その組織性や実効支配の度合いによって解釈が異なります。一方、IHRLは原則として平時・有事にかかわらず適用されますが、武力紛争下においてはIHLが特別法として優先される側面もあります(lex specialis原則)。NIACにおいて、国家がLAWSを使用する場合、IHLとIHRL双方の規範に拘束されると考えられますが、非国家武装集団がLAWSを使用する場合、その法的義務の範囲はより複雑になります。
NIACにおけるLAWS運用の固有の課題
NIACの特性は、LAWSの技術的・運用上の課題をさらに増幅させ、国際法適用に新たな壁をもたらします。
1. 標的の区別と戦闘員ステータス
IHLの最も基本的な原則の一つに、戦闘員と文民の区別原則があります。しかし、NIACにおいては、非国家武装集団の構成員が文民と区別しにくい服装をしていたり、文民が戦闘に直接参加(Direct Participation in Hostilities - DPH)したりするなど、区別が曖昧になる場面が少なくありません。LAWSは事前にプログラムされた基準に基づき標的を識別・攻撃しますが、このような複雑で流動的なNIAC環境において、誤りなく文民を区別し、DPHから離脱した者を保護することは極めて困難です。AIバイアスやセンサーの限界も、誤った標的選定のリスクを高めます。非国家武装集団の構成員に対する攻撃の合法性判断自体も、彼らのステータスが正規の戦闘員ではないため、IACにおける判断基準とは異なり、より慎重な検討を要します。
2. 比例性原則と予防措置の実践
比例性原則は、攻撃による予期される文民の死傷・損害が、得られる具体的かつ直接的な軍事的優位性を上回ってはならないとする原則です。また、利用可能なあらゆる予防措置を講じる義務も課されます。NIACの多くは市街地や住民のいる場所で発生しやすく、軍事目標と文民・文民物が近接しています。LAWSが高速で自律的な判断を下す場合、人間のオペレーターが介在する場合に比べて、刻一刻と変化する状況下での比例性判断や、周辺文民へのリスクを最小化するための予防措置(例えば、警告の実施や攻撃の一時中止)を適切に実施できるかには疑問が呈されます。非国家武装集団の軍事目標が文民インフラと一体化している場合、比例性判断はさらに複雑になります。
3. 人間の意味ある制御(Meaningful Human Control - MHC)の適用
LAWS規制議論の中心にあるMHCの概念も、NIACにおいてはIACとは異なる様相を呈します。国家がNIACでLAWSを使用する場合でも、戦場の混乱、通信の制約、非国家主体の非対称的な戦術といった要因が、オペレーターによる「意味ある制御」を事実上困難にする可能性があります。さらに、非国家武装集団がLAWSを入手・使用する場合、彼らがMHCをどのように理解し、実行するのか、あるいはMHCの基準を満たす能力や意思があるのかは不明です。これは、非国家主体による国際法遵守をどのように確保するかという、NIAC全体に関わる根本的な問題でもあります。
4. 責任の所在と追及
LAWSの使用によってIHL違反やIHRL違反が発生した場合、誰が責任を負うのかという問題は、NIACの文脈でさらに複雑になります。国家による使用の場合、従来の国家責任法や個人責任(指揮責任、上官責任など)の原則が適用され得ますが、LAWSの自律性の高さが因果関係の特定を困難にします。非国家武装集団による使用の場合、その組織構造の不明確さや構成員の特定難度が、個人責任追及を一層困難にします。また、非国家主体そのものが国際法上の責任を負う能力や枠組みについても議論があります。技術開発者、製造者、販売者など、国家や非国家主体以外の第三者の責任をどう位置づけるかという課題も存在します。
5. 非国家武装集団によるLAWSの入手と使用
テロ組織や反政府勢力といった非国家武装集団が、技術の拡散によってLAWSを入手・使用するリスクは現実のものとなりつつあります。彼らがLAWSを運用する際には、IHLやIHRLといった国際法規範を遵守する意思や能力が国家に比べて著しく低い可能性があります。これは、国際法秩序全体に対する深刻な挑戦であり、国際社会がどのように対処すべきかという、法的・政治的に非常に難しい課題を提起します。
国際社会における議論の現状と課題
特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の枠組みを中心に、LAWSを巡る国際的な議論が進められていますが、これらの議論は主に国家を主要なアクターとして想定しています。NIACにおけるLAWSの固有の課題、特に非国家武装集団による使用や、NIACの複雑な法的文脈におけるIHL/IHRLの適用に関する議論は、まだ十分に深められていない側面があります。NIACは現代紛争の主要な形態であるため、この文脈におけるLAWSのリスクと課題に特化した、より焦点を絞った議論が不可欠です。
結論:NIACにおけるLAWSが突きつける課題への対処
非国際武力紛争(NIAC)という文脈における自律型殺傷兵器(LAWS)の運用は、国際法、特に国際人道法と国際人権法の適用に固有かつ深刻な課題を突きつけます。標的の区別、比例性原則の実践、MHCの確保、責任の所在の特定といった基本的な課題は、NIACの混乱した環境や非国家主体の存在によってさらに複雑化します。
これらの課題に対処するためには、以下の点が必要です。
- NIACにおけるLAWS使用に特化した法的分析: IACを前提とした既存の議論に加え、NIACにおけるIHLおよびIHRLの適用可能性、限界、そして必要な解釈について、より詳細かつ専門的な分析が必要です。特に非国家武装集団に対する規範の適用は喫緊の課題です。
- MHC概念のNIACへの応用: NIACの現実を踏まえた上で、LAWSにおけるMHCがどのように確保されうるのか、あるいは非国家主体による使用をどう位置づけるのかについて、具体的な基準やガイドラインの検討が必要です。
- 責任追及メカニズムの強化: NIACにおけるLAWS使用に関連する国際法違反に対し、国家、個人、非国家主体の複合的な責任を追及するための、既存あるいは新たな法的枠組みやメカニズムに関する議論を進める必要があります。
- 技術開発と法的・倫理的議論の連携: NIACの環境でLAWSがどのように機能し、どのようなリスクをもたらす可能性があるのかについて、技術的な知見を法的・倫理的な議論にフィードバックすることが重要です。
- 国際社会における議論の深化と包括性: CCWなどの既存の枠組みや、新たな議論の場において、NIACにおけるLAWSという特定の課題に対する注目度を高め、非国家主体の問題を含めた包括的な議論を行う必要があります。
NIACにおけるLAWSは、将来の紛争における人道的な結果と国際法秩序の維持にとって、極めて重要な論点です。法学者、倫理学者、技術専門家、政策決定者、軍事関係者といった多様なアクターが協力し、この複雑な課題に対する理解を深め、効果的な対策を講じることが求められています。